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第四の仕上げ





好みは分かれるところでしょうが、バリトンくらい大きい楽器が黒いと、それだけで存在感があり、なかなか雰囲気があるのではないでしょうか?


これは「ブルーイング」や「黒染め」といって、楽器を薬品などで処理し、強制的に酸化させて黒くしたものです。
こういったことをする理由はいくつかあるのですが、入荷時の楽器の状態が相当であったというのが第一の理由です。




楽器の見た目というのは、それなりに使用していれば必ず変化していきます。
ラッカーなら剥がれていき、メッキなら薄くなっていき、新品の見た目からはどんどん変わっていくものです。

その見た目にあえて手を加えるのか、そのまま使うのかは好みの分かれるところです。
いつまでもピカピカが良い方もいらっしゃれば、程よくくすんできたほうがカッコ良いと思う方もいらっしゃいますね。


基本的に「修理する」というのは、「改造する」ということでは無く、

「余計を加えない、必要を省かない」が私のリペアのモットーです。

通常のオーバーホールでも、依頼がない限り見た目にはアプローチはしません。



ですが、この楽器に関しては入荷当初、管体はベコベコ凹みが多く、青サビ、赤サビ、まみれでした。
かなり過酷な使われ方をしており、楽器が泣いていました。。。


あまりにもだったので、これは見た目も少し良くしてあげたいと思い、
さて、、どの様な処理を施すか、、ということを考えるところからスタートしました。


楽器の見た目を変えるには、「磨く」ということと「表面処理=その状態を保護すること」をセットで考えなくてはなりません。
あえて何もしないという選択肢もありますが、基本的に金属というのは何もしないと錆びてしまうので、ピカピカに磨いたとしても、あえてキズを残した様な見た目にしても、表面処理がなければせっかく磨いた状態がすぐに赤サビ青サビになってしまうため、何らかの「表面処理」が必要になるのです。

また、「表面処理」をしようとしたとき、表面に汚れやサビがあるままだとラッカーもメッキも効果的にかからないため、「磨き」が必要になるという対の関係になっています。


新品の楽器はピカピカに磨き上げる「鏡面仕上げ」が一般的ですが、細かいキズをあえてつけた「サテン仕上げ」もあります。
他にも色々種類はありますが、磨きと同時に表面処理のことも考えていきます。

管楽器の表面処理には大きく分けて「ラッカー」「ノーラッカー」「メッキ」の3つがあり、それぞれ特徴があります。



「ラッカー」はウレタンかアクリルなどのいわば小学校の工作で使った「ニス」のようなものを塗布して乾燥させることで表面を保護します。
乾燥方法にも種類があり、工場では乾燥したサウナの様な釜みたいな部屋に30分入れるなどする焼き付け法が一般的ですが、自然乾燥のものもあります。ラッカー自体は無色透明なので、塗布すれば真鍮の色そのままが出てきます。昔のセルマーの様な明るい黄色というか真鍮色なのがクリアラッカー。 
少し赤色を混ぜたりすると色が付き、現在のセルマーやヤマハの様な濃い真鍮色というか、ゴールド色に近くする事もできますし、混ぜる色を変えれば様々な色味を出す事も可能です。



「メッキ」は電解した溶液に漬けて、表面に違う金属の膜を生成する方法です。
亜鉛メッキや、クロムメッキ、など、メッキ自体には色々種類があるのですが、楽器で使うメッキは金と銀の2つが基本です。ちなみにピンクゴールドというメッキは金メッキに少し銅を加えた物で、金属の配合を少し工夫する事で、色々なバリエーションを出す事もできます。 金+銀=ホワイトゴールド 金+銀=グリーンゴールド など。変わり種としてはプラチナ、ルテニウム、ロジウム、などもあります。



「ノーラッカー」は何もしないということ。上記の様に放っておくとどんどん変色していくので、多湿の日本では一般的ではないのですが、ドイツで作られている伝統的なトロンボーンだと、ノーラッカーが基本になります。 
すぐに変色するといいましたが、実はゆっくりうまく酸化させ、綺麗に酸化皮膜ができれば、その皮膜がラッカーの様な役目をして錆びにくくなりますし、虹色の様な光沢もでて、ノーラッカーにはノーラッカーの世界があります。




表面処理の違いや、その表面処理をする過程の違いによって生み出される「音質」の変化、そしてそれをどう捉えるか?といった事は奥が深くて大変面白いですね。

20年前にTPやTBのメーカーで知られるアメリカのシルキー社の社長の講義を聞いたときには「メッキ以外はデッドサウンドだ」と言い切っていたのが印象的です。(その後ラッカーもラインナップに入ってくるのですが。笑) 
一方ドイツ管は伝統的にノーラッカーですし、私が尊敬しているサックスを一人で作っているオランダの「フリーソ氏」が作る「アムステルダムウインツ」のサックスもノーラッカーです。





さて、、このヤマハのバリトンはこのうちのどれでもない処理をする事にしました。

それが「ブルーイング」です。

「ノーラッカー」からの派生系として考えてもよいのですが、
管体表面に薬剤を塗布して強制的に酸化させることによって、濃くて黒い酸化皮膜を生成します。
酸化皮膜があればそれ以上酸化することは基本的にないため、保護になるというわけです。
人の手で触った箇所は薄くなっていきますが、もともと酸化しているため、良い感じのムラになるのでは?と予想しています。

この技術は「銃」の鉄の部分に使われることが多く、「ガンブルー」とも言われたり、参加させた鉄が青く見えることから「ブルーイング」の名前が使われているとのこと。
楽器に使われることは稀なのですが、サックスだとスイスの『インダービネン』社がこの方法で作っています。(たぶん)


このバリトンサックスは細かくて深いキズが沢山あり、「ラッカー」や「メッキ」を前提にしてキズが消えるまで磨くとなると、管体がだいぶ薄くなってしまうのではないか?という懸念がありました。
そこで、いっそ木の葉は森に隠すのが一番ということで、逆に管体に細かなキズをあえて付け、サテン仕上げにすることで傷を目立たなくさせ(ほとんど消えたと言ってよいかも)その上にブルーイングを施すことで、今までに無いマットな仕上がりの黒バリが完成いたしました。
すでに少しムラがありがありますが、それも良い味になっているのではと思います。
また、マットな仕上がりなので、写真写りと実物の差が結構あります。
ぜひ現物を見ていただければと思います。


気になるブルーイングの音質ですが、、ぜひご来店いただきお試しくださいませ!
本来もっているヤマハYBS-61のキャラクターとうまくマッチしているのではと感じています。


ご来店の際にはお手数ですがご一報いただければ幸いです!
よろしくお願いいたします♪